ウクライナ紛争でよく耳にするようになった国モルドバ。この国に暮らす人々を撮った写真集に、『地平線のゆりかご モルドヴァ・ラプソディ』(発行:アートビレッジ 2021年5月)があります。こちらも、みやこうせいさんの写真集です。

 本の形が見えてきた終盤に入ってから、みやさんからこの写真集の画像の色調整の依頼がありました。かなり頑張り対応した写真集です。

モルドバの人々の明るい表情を
見てほしい美しい写真集です

 モルドバはウクライナとルーマニアに挟まれた小さな国。ルーマニアを愛しているみやさんは、モルドバにも足繁く通っていました。みやさんは「写真はカメラが撮っているもの」と、ご自身を写真家と呼ばれることを好んでいないようです。みやさんは、まず風土の中に入り民衆の記録として写真を考えているのかもしれません。膨大な日本の民衆と生活を写真に残した、民族学者の宮本常一(リンク先はNHKアーカイブ〝あの人に会いたい〟2分41秒の映像です)さんの姿勢とも重なってきました。みやさんが敬愛する薗部澄さんも宮本常一さんの理解者の一人でした。

〈 写真集『地平線のゆりかご 』の色〉

 普通は、原板(オリジナル)を尊重し、色をいじり過ぎてしまうことは控え、「健康色に」と言われてもある程度のところまでとします。しかし、ぼくは水の宮殿、鳥の歌』を一緒に作りながら、みやさんは写真家の前に民衆の表情を見せたい人と感じていましたので、「とにかく元気な色にしてほしい」の言葉を受け、肌の色を思い切って調整しました。

 今年の4月に、みやさんの家を訪問した際、『地平線のゆりかご 』の写真集が一年近くしてようやくモルドバの知人の手に届いたと話していました。「東欧の情勢は、こんなもんです」と笑って話していました。それでも、その知人からは、美しいと称賛されたようです。ぼくも、モルドバの人に色が受け入れられホッとしました。

背景はモルドバの国旗
青は空、黄は小麦、赤は独立のための闘いを象徴
ウクライナの国旗とも色は近いです
写真は『地平線のゆりかご』より転用しています

 また、薗部澄さんのことを書いた文章が、ようやく岩波書店の『図書』に掲載できることになったと喜んでいました。みやさんも、薗部澄さんのバトンを繋げようとしているのだと感じました。

 ただ、ウクライナ紛争の話になると、みやさんの奥様である児島宏子さんがロシア語の通訳・翻訳家であるため複雑なようでした。奥さまはロシア アニメーションのユーリー・ノルシュテインさんとも親しい関係で、みやさんの家に何度も泊まることがあったようです。そして、ユーリーさんのようにロシアにいる知識人たちも、紛争の停止に動いている人は多くいますと話していました。(2022年6月)

 7月3日に訪問した際には、ロシアアニメーションのレオニード・シュワルツマンさんが前日に亡くなったと話されていました。シュワルツマンさんは、宮崎駿監督が影響を受けた『雪の女王(ジブリ美術館で公開された際の予告編映像・1分にリンク)の美術監督であり、人気立体アニメ『チェブラーシカ』の生みの親でもありました。

 ウクライナ紛争への反対署名に、アニメ界の人民芸術家(芸術家に与えられる栄誉賞号)の中で最初に署名したのがシュワルツマンさんであり、2番目がノルシュテインさんとお聞きしました。集団の力は大きいものですが、想いを込めたひとり一人の力も同じぐらい大きいものと思います。(2022年7月11日)

 2022年7月20日の毎日新聞・夕刊に児島宏子さんのインタビュー記事が掲載されますと、児島さんからメールをいただきました。*新聞スクラップしたものを掲載させていただきます。

 7月3日にお聞きした内容と同じでしたが、さらに細かく書かれています。ロシアアニメーションを敬愛してきた一ファンとして、現在の状況には心が引き裂かれるような気持ちでいます。(2022年7月23日)