以前の本には、著者の住所が書いてあることが多かったです。串田孫一さんの本にもありました。小金井市緑町で、現在ぼくの住む貫井南町とは、中央線を挟み東側に位置する町です。
番地を頼りに串田さんの家を探しました。草木が鬱蒼と茂る垣根から、覗いたことがあります。串田さんは、昼間でも灯りの点る道路に面した仕事部屋にいらしゃいました。
窓越しに、目が合ってしまったこともあります。本当に失礼なことをしていた〝変人〟の私でした。
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串田孫一さんを敬愛し、仕事部屋を残そうとしていた人がいました。
串田孫一さんが編集をしていた山の文芸誌「アルプ」を愛し、串田さんの仕事部屋を北海道の斜里町に移転し、北のアルプ美術館(1992年開設)を創設した山崎猛さんです。
ご自身も流氷の写真を撮る自然を愛する人です。
また、北のアルプ美術館のホームページではすばらしい書籍もたくさん紹介されています。
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2018年の『Coyote Winter号』の特集でも特集されていました。
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1994年の3月に、ラジオ番組の終了記念として、地元緑町の公民会で「串田孫一さんを囲んで」という座談会があり参ました。
公民館の板の間に車座に座って話を聞きました。
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その中で忘れられない話しがあります。
座談会に参加した人から、「私は串田さんの日々のできごとを、さりげなく自然に描いている文章が好きな一人です。日々の中で、楽しい発見をするコツを教えてください」
このような質問でした。
串田さんは、「ぼくは家の前の落ち葉掃きをしながら、その時のことをエッセイに書くことがあります。焚火をしながら、おもしろい経験をした話も書きました。でもね、ほとんどは作り話です。本当にあったことを書いているように思うかもしれませんが、多くは創作なんですよ」
この話を聞き、「山のパンセ」をはじめ、串田さんの書かれている文章が、すとんと胸に落ちていきました。
高校生時代に『山のパンセ』に触発され行った上高地。河原で野宿をして震えていた自分を思い出し、それも楽しい自分の物語だったと思えるようになりました。
そして、実際にあったことだけではなく、イメージを織り込んで文章を創っていくことを知り、文章を読む楽しさと書く楽しさを教えてもらった気持ちになりました。 思い出に残る緑町の座談会でした。(2023年8月)