印刷の仕事に長く携わっていると、最良な状態で出来上がった製品を「納本」と言っています。汚れも無く安定した状態で印刷した刷り本を製本し、検品してから、発注元に届ける製品のことでした。
納本以外の本には気を使わないというのではありません。印刷と製本に目標を設定することで、品質の安定を保つために現在も使われています。
この納本と、国会図書館に収める「納本」は異なります。
国立国会図書館のホームページには、納本の目的として、〝民間出版物は、国民共有の文化的資産として、広く利用に供し、永く後世に伝えるため〟と書かれています。
小野千世さんの『花と木沓』も読み継がれてもらえればと、直接国会図書館に足を運び納本してきました。納本する場所は、地下への階段を降りた広い部屋でした。呼び鈴を鳴らすと、奥から係の人が出てきて、丁寧に対応してくれました。
この日、自宅に戻ると小野千世さんから手紙が届いていました。
2通の『花と木沓』を読んだ人が小野さんに送った感想文が入っていました。また、小野千世さんに渡した、ぼくの若い友人の感想文へのお礼の手紙も入っていました。青いインキで書かれた手紙でした。〝味わって、読んで〟と書いて、友人に送りました。
自費出版ですので、広く展開していくことは難しいと思っています。しかし、本を作り、読んでもらえる喜びを、小野千世さんと共有できた日になりました。(2022年11月)