現代美術社の教科書を探しました。しかし、古本屋さんでは教科書はほとんど見つかりません。教科書は古本屋さんに持って行くことは少ないようで、紙ごみと一緒に処分されることが多いのかもしれません。そのため、初めての経験でしたが個人が出品するサイトを探してみました。はじめに、ヤフーオークションで高等学校美術の教科書『1.美術・その精神と表現』を見付け購入。次に、同じ『1.美術・その精神と表現』 と 『2.美術・その精神と表現』 の2冊セットをメルカリで見付けて両方を購入しました。「1」は2冊になってしまいましたが、敢えて2冊を見たいと思っていました。それは、最初に見た絵の色が気になったからでした。その絵は、日本の画家中村彜(つね)〈1887年7月3日~1924年12月24日〉の「 髑髏(どくろ)を持てる自画像」です。
ぼく自身、この絵の実物を見た記憶はありません(倉敷の大原美術館所蔵)。何度も見ている竹橋の国立近代美術館にある彜の代表作「エロシェンコ氏の像」の印象と重なっているのかもしれません。 彜 は、結核で体力はなく筆を持つこともままならない画家であり、油絵も薄塗だったことを覚えていました。
どうしても気になってしまい、7月13日に近代美術館に行ってきました。
落ち着いた色合いの、やはり薄塗の油絵でした。ミュージアムショップで新潮日本美術文庫を購入しました。小さな判型で携帯に便利な画集です。解説を書かれている原田光さんは、元岩手県立美術館の館長であり、シャープな解説も魅力的でした。
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この色の違いは何でしょう。印刷人として、最初は印刷で色を調整中のものが入っているのではと考えてしまいましたが、実際には現代美術社の2冊で大きな違いはありませんでした。意図して再現した色であると思いました。
ここからは想像ですが、現代美術社の太田弘さんはこの強い色(血色のよい色)で、 教科書に活気を与えたかったのかもしれません。 そう見ていくと、「 髑髏を持てる自画像」 だけではなく、 『美術・その精神と 表現』に掲載されている絵は、どれもしっかり色が付いているように見えてきました。印刷人の習性でしょうか、印刷物に鼻を近づけ匂いを嗅ぎました。油性インキの匂いがぷんぷんしてきました。
絵は、照明によって表情は大きく変わります。近代美術館の照明は高い天井からの照明でしたが、画集を作る際の撮影ではまた違う光で表情も変わります。 彜 自身、下落合のアトリエの自然光で描いていたと思います。絵は環境で変わります。画集でも教科書の絵でも、この様々な環境を通して作られた印刷物です。太田さんはこのことをわかっていて、敢えてこの元気な色にしたのではないでしょうか。高校生に色で活気を伝えたかったのかもしれません。また、太田さんご自身、自分に対し「頑張ろう」と願う決意の色であったのかもしれません。(2022年7月)