写真集は、ドイツに端を発したドナウ川が黒海に注ぐルーマニアのドナウ・デルタ地方の自然と風物を撮った、みやこうせいさんの写真とダニエル・ペトレスクさんの写真からなる共著です。ダニエルさんはみやさんの友人である鳥類学者のエウジェン・ペトレスクさんの息子さんです。

 みやさんの写真は、序文でエウジェンさんが書いているように、ドナウ・デルタ地方を訪れた時の心象を「俳句」のように、写真にしたものでした。一方の、ダニエルさんの写真は、瑞々しい感性と行動力で鳥の生態を撮影しています。この二人の写真を、最終的にはみやさんが選び出して作った写真集でした。

 出版社から120点あまりの写真画像が送られてきました。デジタルカメラの画像と銀塩フィルムが混在していました。デジタルカメラの画像は、色と露出が安定していました。一方、銀塩フィルムの画像は、スキャニングした時のホコリが多く、露出もばらついていました。みやさんの写真には銀塩フィルムが多く、ダニエルさんはすべてデジタルカメラで撮影したものでした。PhotoShopのファイル情報から、デジタルカメラの機種を見て、みやさんとダニエルさんの写真を整理して進めました。

 写真集は、「カラー原稿通り」で作る場合と、「カラー原稿は素材、〈思い〉が原稿」として作る場合があります。みやさんからの話をお聞きしていると、みやさんは〈思い〉から作ろうとしているように感じました。カラー原稿の持ち味を大切にしながらも、そこから更にみやさんの 〈思い〉 を引き出そうとレタッチを進めました。

 一番難しいのは、レタッチする「ぼく自身」が、創作してしまいそうになるところを抑えることでした。作家と黒子のレタッチマンの信頼関係があって、はじめてできるものと思います。

 また写真集全体の統一感を大切にするため、デジタルカメラの画像と、銀塩フィルムの画像でPhotoShopのフィルター機能を使い分け、調整することに神経を注ぎました。

 以下、特徴的な事例を数点紹介します。

入稿した画像

 みやさんからは「朝の船舶の客室です。朝日の色と、人物の表情を大切にしてください。」とありました。

 レタッチは(1)朝日の赤色の彩度を上げる(3)やや緩いピントのようでしたので、多めのフィルタ(シャープさ)を加える(3)右下の人物を切り取り、増感処理(一番調子の出ている色版を使い、その調子を引き出すようトーンカーブで調整)しています。ただし、不自然にならないよう注意しました。

レタッチ修整後の画像

 印刷段階でインキの盛り過ぎで粗びが目立ってしまわないよう、印刷立ち合い時にも注意しました。(2022年2月)