現代美術社1987年発行
編者:箕田源二郎

 箕田源二郎(みたげんじろう)さんは1918年東京生まれ(~2000年)。小学校の教職に12年就いた後、美術の仕事に専念された画家です。

 ぼくが覚えているのは『別冊アトリエ・童画を始める人へ』(アトリエ出版社 1976年刊)に執筆している、絵本画家としての箕田源二郎さんです。まだ横浜に住んでいた頃であり、この本は有隣堂で購入しています。

 絵本製版に仕事に就くようになり、製版カメラで原画を撮影する時の参考に時々目を通していました。ぼく自身が、童画を描くことはありませんでしたが、この冊子は今も大切にしています。

 今回、久ぶりに読み返してみました。箕田さんは画材などにはほとんど触れておらず、絵本に登場する人や動物に命を吹き込む(生き生き描く)ための考え方を書いていました。物語(性)を大事に考える画家であることがわかりました。鈴木義治さんの描く絵に通じるものを感じました。

 

 この本の目次です。ここに箕田さんの気持ちが伝わってきます。この想いは、現代美術社の太田弘さんの想いでもあったことでしょう。

 「無理やりわかろうとしなくてもよい。・・・せっかちさは、大切なことを忘れさせる」

 コロナ禍の時代になり、〝ネガティブ・ケイパビリティ〟(Negative capability)という言葉を、時々聞くようになりました。「すぐに事実や理由を求めることなく、不確実なものや、未解決なものをそのまま受け入れる力」、このじっと堪えることの大切さを指摘する人が多くなりました。

 まさに、同じことを箕田さんは伝えようとしていました。大切にしていきたい言葉です。

 「暗い谷間を生きた画家たち」の章には、長谷川潔さんの銅版画『樹(ニレの木)』が載っています。

 〝帰国せずにフランスにいた長谷川潔は、戦火からの逃避行のなかでも技術の修練を志し、「樹がボン・ジュールと声をかけてくれた」と生きていることのすばらしさを一本の樹に込めている〟と書かれていました。(2022年8月)