長谷川潔さんの銅版画が掲載されたページには、凹版印刷(グラビア印刷)が使われていました。

上:現代美術社の高校美術の教科書(昭和62年印刷)
左下:ぼくが実際に使った中学美術の教科書(昭和45年印刷・日本文教出版)
両方とも長谷川潔の銅版画が掲載されています

 〇

 ぼくが製版会社から、印刷会社に移ったのは昭和60年(1985年)。同期入社した3名はいずれも製版専業から移った人でした。そのためでしょうか、印刷に関する勉強会があり、歴史ある雑誌は凸版印刷・平版印刷・凹版印刷の3大版式(シルクスクリーンの孔版印刷を含め4大版式ということもあります)で印刷されていることを教わりました。その良い例が『家庭画報』とのことでした。それからは、『家庭画報』が発売されると本屋さんに行き、ルーペで 『家庭画報』を見る日が続きました。

 その頃には、凸版(活版)で印刷されたページを見つけることはできませんでした。全ページ、平版印刷(オフセット印刷)と凹版印刷(グラビア印刷)で印刷されていました。また、共同印刷+凸版印刷+東京印書館の3社が分担して印刷していました。

 3大版式: https://youtu.be/W0PCy5UG4j(2分間の映像。MusMusからの音楽が入っています)

 現在は、活版印刷は名刺など限られた用途で使われるだけになり、グラビア印刷は食品を包むパッケージの印刷が主な用途になり、雑誌や本への印刷はオフセット印刷が主流になっています。

 この教科書が印刷された時代は、まだ3大版式が現役で残っており、版式を選ぶことができた時代でした。現代美術社の太田さんは、迷わず銅版画には グラビア印刷を用いました。現在見ても、美しい黒に引きこまれるようなページになっています。

 現在(2022年)の『家庭画報』はすべてオフセット印刷であり、共同印刷1社で印刷しています。美術の教科書もオフセット印刷です。どちらも最新の技術が使われ、大変美しい印刷に仕上がっています。しかし版式の持つ特徴を見ることはできなくなりました。

 上記写真には、ぼく自身が実際に使っていた中学時代の教科書も載せています。長谷川潔「木のある風景(エッチング)」は、ぼくが中学・高校を通じてもっとも脳裏に残った美術教科書の一枚です。この絵もグラビア印刷が使われていました。

 今夏、町田市立国際版画美術館で長谷川潔展〈1891年~1980年 日常にひそむ神秘〉が開催されています。日常ともうひとつ、黒の持つ神秘を感じることができる展覧会です。(2022年8月)