点字の本を読んでいると、最初に覚えた点字は「あめあめふれふれ」と書いてありました。点字表を見ると、

斜めの点がなく、触れば判るだろうと目を瞑って触ってみました。しかしそう簡単ではありません。

 本には、指がしびれるぐらい読み込んで、はじめて読めるようになると書いてありました。 

やはり覚えるためには、手に記憶させるしかないのでした。

 自分が字を覚え始めた頃のことを思い出していました。

 最初に覚えた漢字は「止」でした。標識で何度も繰り返し見て、形として覚えたのでしょう。

 小さい頃のぼくの字は、紙が破けるくらい強く書く癖がありました。子どもながら小さなペンダコがありました。クレヨンも同じように強く描いていましたので、絵を描くとクレヨンがポキポキ折れてしまいました。

 見るに見兼ねてでしょうか、母から自分と同じ字を書くようにと、漢字の練習帳を渡されました。そこに母は「近」「島」「哲」「男」と書き、ぼくはその下に母の筆致を真似ながら書いていきました。慣れない指の動かし方をしたため、指はマヒしたようになっていきました。

 書いてはすぐ母に見せようと、家中ノートを持って歩きまわりました。

 覚えているのは、母が風呂から上がるのを待ちきれず、「見て」と風呂場に持って行ったことでした。濡れた手でノートを持ち「だいぶ良くなったね」と、言われたときのうれしさは今も忘れません。そのためでしょうか、今も「近島哲男」の字は母の書いた字とそっくりです。

 字が変わると、クレヨンの持ち方や塗り方も変わり、クレヨンを折ることもなくなりました。そして、絵を描くことが楽しくなっていきました。

 点字を読むためには、指の感覚をどう高めていくかを考えていました。

 しかしそればかりではなく、字を覚えようとしていた子ども時代を振り返り、繰り返し文字を書いたことと同じように、点字に繰り返し触れてみることが大切と思うようになりました。

 〝目が疲れず、暗闇でも本が読める魅力ある文字〟自分の中で点字は大きく膨らんでいきます。(2023年7月)