“最近はこの曲ばかりを聴いています”
今秋、みやこうせいさんからのハガキに書かれていました。
多くの映画音楽を作曲してきた、モルドバの作曲家エフゲーニ・ドガのワルツ。
ハガキの最後に、“切れるような美しい曲”と。
すてきなワルツです。
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みやさんの写真集『地平線のゆりかご モルドヴァ・ラプソディ』(発行:アートビレッジ 2021年5月)を思い出しました。
「チカシマさんの目で、色をもう一度見てくれませんか」
印刷間近になって、みやさんからお願いされました。神戸の出版社の編集者も困っていましたが、ぼくも必死で対応。二日間徹夜でした。
その時は、まだこのワルツを知りませんでした。
みやさんからは、この写真集は「元気な色で、モルドバの人たちの健康な姿態を見てもらいたい(再現してほしい)」とだけ言われ、その方向で色修整を進めました。
しかし、編集者からは『写真(データ)』の持っている色を活かすのが基本と反対されたのも事実です。
今回このワルツを聴いて考えたことがありました。もしこのワルツを色修整のタイミングで聴いていたら、元気な色を意識しながらも、もう少し違う色作りをしていたのではないか・・・
感情に左右される色修整作業を不安に思うかもしれません。それでも、この感情の“振れ”が、時に美しい色を生み出す時もあると信じてやってきました。
※絵本など原画を再現する際は別の色作りが求められると思うかもしれません。しかし、原画を見てどのように感じたか、そこにも色を作る人の感情は入ってきます。ここに、新日本セイハンの野村廣太郎さんが言われた「第二芸術」があるのかもしれません。
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11月に検査で入院。
父が使っていたイヤフォンを持って行きました。父は、新内と謡曲を小さなカセットテープレコーダーで聞いていました。
新内や謡曲は、父は、曲の情景やイメージを楽しみながら、曲を聴いていたと思います。
♪ワルツ♪は、イメージする前に身体が動き出すような音楽。この違いをベッドの上で感じていました。ぼくもいつか新内や謡曲を聴けるようになりたいと思っています。
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ワルツの軽快な音に、イヤフォンも少々驚いたのか、時々“ジリッ、ジリッ”と音がはじまりました…
がんばれイヤフォン!(2023年12月)
「煮込み③」は明日掲載です。(谷内六郎さんの表紙『週刊新潮』の“明日発売です”をまねてみました。)