2006年に多川精一さんの事務所で平野さんとお会いしました。ホームページのトップで映すスライドショーの「グラフィックアーツの世界」は、その時の多川さんの事務所の光景です。左上にが多川精一さん、左下でペンを持っているのが平野さんです。もうひとり右にいる方は、今後の中で紹介していきます。

 お会いして間もなく平野さんから、平野さんご自身が会員でもある京都の便利堂が主催する〈コロタイプ技術の保存と印刷文化を考える会〉へ入会しました。その後、会が開催する研究会に何度かご一緒しています。平野さんが、便利堂の山本工房長にトーンカーブのことをいろいろと質問されていたのを思い出します。ちなみに、コロタイプの「コロ」は膠(にかわ)のことでした。こちらは便利堂の「コロタイプ通信」に載っています。

 その後ぼくは、2回便利堂の本社で開催された研究会に参加し、工房の見学をいたしました。アナログとデジタルの融和を感じることができる職場でした。デジタル化を推進しようとすると、どうしてもアナログ作業を外していく方向になってしまいますが、便利堂ではアナログとデジタルのバランスがうまく保たれていると感じました。

 製版カメラ室にも入らせてもらいました。その空間は、まさにぼくが最初に就いた製版カメラ室そのままでした。色分解した像を写し取るためフィルムもパンクロマチッフィルムを使うため、ほぼ全暗黒の中で作業をしていました。

製版カメラの内部から原稿を見ているところ(毛利製のカメラ)。
ぼくも、絵本の原画をこの画面を覗いてピント合わせをしていました。

 2013年に小さな ガラス(玻璃(はり))版を、便利堂から譲ってきただきました。西荻ブックマークで古い絵本のおもしろさを知ってもらおうと、いろいろな印刷版式を紹介、その時にコロタイプ印刷も説明しました。以下にその時のスライドの一部を添付します(35秒の短い動画。MusMusからお借りした小さなベルの音が入っています)。参加した皆さんには、版に触っていただき、印刷物をルーペで覗いてもらいました。 膠(ゼラチン) にはわずかな弾力性があり、皆さん触感を楽しんでいたようです。

 2016年には、働いていた会社で山本工房長に講演をしてもらいました。コロタイプ印刷手法を通し、自分たちの生業であるオフセット印刷をもう一度確認することが目的でした。実際にヘラでコロタイプインキの硬さを感じることができ、コロタイプ印刷により親近感を持つことができました。現在も、オンラインの形で研究会が継続しています。山本さんも変わらぬ穏やかな京都弁で、コロタイプの新しい魅力を話し続けています。これからも応援していきたい大切な印刷手法です。(2021年12月)