2023年12月、ホームページの「窓」を通し

 「いっぷくコーナーの絵を見て、義兄さんが原画展を見に行かれていたのを思い出しました。
 義兄さんは原画を見る時、原画の色と印刷の色の違いを見てこられるのですか?
 もし自分ならどうする?とプロの視線でご覧になるのですか?」

 このようなメールが届きました。妻の妹さんからの質問です。

 妹さんには

 「たしかに〝色の違いを〟見つける目で、原画展を〝目を皿にして〟見ていた時代がありました」

 「プロの視点というよりは、色のズレをどれだけ探すことができるか、そんな目でした」

 と、お答えしたいと考えたのですが・・

 いろいろな思い出がつながり、質問からイメージが広がっていきました。

 ある原画展に、父と行った時のことを思い出します。

 ぼくは、一巡目は原画展の絵をぼんやりと見ていきます。

 二巡目は次に置いてあった図録や絵本を手に原画と印刷物を比較しながら見て歩きます。いつもルーペは持っていましたので、時々印刷物の網点を見ていました。二巡目が終わると、集中力も切れて、ヘトヘトになった自分がいました。

 父はじっとぼくを待っていました。そして一言、「哲男が仕事をしているのをはじめて見た」と言ってくれました。

『小さな小さなキツネ』(ポプラ社)
絵:鈴木義治 文:長崎源之助
上が絵本・下が原画
絵本の方が温かみのある色に仕上がっています
『こたん こる かむい』(至光社)
絵・文:小野千世
絵本の方がメリハリ(コントラスト)があります

 〇

 一線から退いたからこそ言えるのかもしれませんが、

 印刷物作りは〝原画=印刷物(絵本)〟ではないと考えています。

 〝原画+アルファ=印刷物(絵本)〟にしておかなければ、原画の『力』(存在感)に印刷は届きません。原画の忠実な再現を目指しながらも、そこにプラス(補充)をしていく仕事と考えるようになりました。新日本セイハンの野村広太郎さんの『第二芸術』という言葉が少しずつ、わかるようになってきました。

 ぼくは、ふたりの絵本画家の原画を持っていますが、原画を見る度に、絵は描いたその時から色が落ち(退色)はじめていくものと感じるようになりました。もちろん印刷物も退色をしますが、再版していくことで、元に近い状態を維持できると考えています。

 製版と印刷はその退色を止め、次の時代に絵本として絵をつなげていく技術を担っていると思うようになりました。

 質問されたことで、話したいことが次々に湧き上がってきました。これからも質問を楽しみにしています。(2023年12月)