印刷インキの美しさを感じることができる一冊
1987年 童心社刊
最初に出会う黄色(やや山吹色)のベタ
次に出合う色は黄色の補色の赤紫のベタ

富山高岡の鋳物町で購入した長さ4cm の〝かたつむり〟の文ちん
働いている頃、若い人へのアドバイスは
「ゆっくり歩けば、遠くに行ける」でした
今は自分に言っています

 この本は、ロングセラー絵本『おしいれのぼうけん』の古田足日と田畑精一コンビが作った物語絵本。ブックデザイン・田畑精一と書かれています。

 インキのベタで塗られた1ページが、章ごとに色を変えながら出てきます。そのページに立ち止ると、息を吸うように、目も深呼吸の時間を持つことができます。

 田畑精一さんは、印刷インキの色に魅せられた画家だったのではないでしょうか。

 

 印刷インキのベタ色には不思議な美しさがあります。絵で見るベタ塗りには筆致がありますが、印刷機で練られたインキには筆致がありません。〝筆致のような味わいを持たない〟これが印刷物の淡白で、潔いところにも思えます。

 裏の文字がうっすらと透けて見えるところにも、おもしろさが感じられます。

 以前、色校正をお願いしていた印刷所には、大きな紙に印刷されたインキのベタ刷りが壁に何枚も貼られていました。その会社はあるインキメーカーの子会社でした。会社を任されていたのは、そのインキメーカーの技術上がりの方でした。とにかく美しいインキの色を、職場の人たちの目に焼き付けてもらおうと貼っていると話していました。場所はキューポラの残る川口にありました。

 色校正の立ち合いで頻繁に通いましたので、ぼくの目にも Cyan、Magenta、Yellow、それぞれの大きな四角い色が残っています。立ち合いの待ち時間には、キューポラを探して工場の周辺を歩いていました。懐かしい思い出です。

 このページを書いた後、ある工芸高校の実習室を訪問。目にしたのは・・・

 ベタ色は相変わらず美しく、手を触れた印刷機も心なしか暖かく感じました。(2023年2月)