発行:講談社

 この絵本を3冊持っています。1冊は1999年の第1刷、1冊は2022年の改訂版の第1刷、そしてもう1冊は2011年の第15刷。この15刷は綴っていた糸を鋏で切り本を壊しました。

 この絵本は、平成11年(1999年)の第34回造本装幀コンクールで文部大臣賞を受賞しています。

 造本装丁コンクールを意識し始めたのは、自分が関わった本が平成22年(2010年)の第44回造本装幀コンクールで受賞したことからでした。このコンクールは、大の本好きで読書家だった俳優の児玉清さんが18年間審査委員長をしていました。

 ぼくも授賞式に参加させてもらい、児玉さんと握手をしました。児玉さんは2011年の5月にお亡くなりになりましたので、貴重な授賞式に参加でき幸せでした。

  造本装幀コンクール には公式図録があり、受賞作には審査員の講評が掲載されています。『とんとんとん のこもりうた』が受賞した第34回の図録を探したのですが、見つけることができませんでした。そのため、ぼくなりに本に触れ、解体してみて感じたことを書いてみます。

 まず感じたのは、この絵本を手にした時の堅牢さです。安心感があります。

 次に、本を開くと黒色の見開きになります。この絵本は土に穴を掘り、外敵から守るため穴の入り口を埋めて子育てをする、奄美大島のクロウサギを題材にしていますので、この黒が穴の暗闇への導入口になっているようです。

 洋紙はカバー・表紙・見開きすべてエンボス紙が使われています。黒色を大きく占める印刷の場合、見る角度によって照明の光を反射し見辛い時があります。エンボス加工があると、その反射がランダムになり黒が生き生きとしてきます。

 現在は、エンボス等の加工された洋紙の製造は少なくなりました。しかし、本を作る側からすれば多彩に加工された洋紙は魅力的なのではないでしょうか。

本文のひとコマ

〈日本加工製紙の見本帳〉

NK 1998 Printing Paper Sample(印刷紙見本帳)より

 紙の名前に「NK」が付くことで知られていた製紙メーカー日本加工製紙株式会社が、2002年突如自己破産しました。1917年に設立され、日本で初めてアート紙を作った長い歴史を持った会社でした。しかし、景気の低迷からアート紙などの高級紙の需要が減り、また多様な種類の製品を作っていたため生産効率も低迷していたとありました。

 ぼくはこの 「NK」 が付く紙が好きで、今年の6月に亡くなった写真家・田沼武能さんの写真を題材に作られた洋紙見本帳を、今でも大切にしています。24年近く経っているため、紙は少しずつ焼け(枯れ)始めていますが、今も時々開いては紙の感触を楽しんでいます。(2022年10月)