一番さんは横浜の中華屋さんで修行を積んできた人でした。
ぼくがいきなり「サンマーメンできますか」と聞くと、待っていました!と言わんばかりにさっと作ってくれました。
もやしと白菜と豚肉を煮てとろみを付け、その具を麺の上にのせたものです。魑魅魍魎のラーメンに見た目は少し似ていますが、横浜の中華屋さんではメニューに載っている麺で、ぼくもよく頼んでいました。今は横浜のソウルフードになっているようです。
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本当のことを言うと、一番さんで〝一番〟美味しかったのはカレーライスでした。(一番さんゴメンナサイ)
ぼくが、いつものようにカウンターから作るのをジィーと見ていると、中華鍋で沸かした湯に玉葱と人参をポンポンと投げ入れ、煮立ててからバラ肉そして玉柄杓(ひしゃく)にS&Bの赤缶からカレー粉を入れて、かき混ぜているだけでした。
一番さんのことですので、酔った勢いで何かを混ぜてしまうことはありますが、さすがにこの日はお昼でしたので、ビールの入ったコップはありませんでした。
ぼくもじっと作るのを見て食べましたので間違いありません。ぼくの父も大好きなカレーでした。
お店によっては、中華の味付けになるようひと工夫するところもありますが、一番さんは何も入れていませんでした。それなのに、おいしく味わい深いカレーライスだったのです。
ぼくは、一番さんの使っている中華鍋と玉柄杓に、秘密の仕掛けがあったのではないかと、今も秘かに思っています。
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2016年の道路拡張にともない、中華一番は閉店となりました。整地された跡地は本当に小さな面積でしたが、ぼくを含め一番さんを頼りにしていた常連の人たちには、大きな拠り所となっていたお店であったことに間違いありません。常連の人たちは、しばらく路頭に迷ったことでしょう。ぼくもそうでした。
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しばらくすると、一番さんから閉店のお知らせのハガキが届きました。
〝卒業〟すてきな言葉を使う一番さんでした。
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これからも町でお会いすることはあると思います。その時は、ぜひカレーの作り方を聞いてみたいと思っています。
一番さんからは「あのお店の中華鍋と玉柄杓、そして常連さんが一緒にいてくれないと作れないよ」と、返ってくるかもしれません。(2023年12月)
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〝栄養のつく中華料理〟を目指していた中華一番さんの最後のメニューです。
鳥の唐揚は〝チューリップ揚げ〟という骨付き、千円を超えるものはありませんでした。