実写ではありません
朝写真を撮り、深夜に見た
イメージを作ってみました
上下のポールは介護ベッドの柵

 現在ぼくは療養中。定期的に点滴を受け、最後に白血球が下がらないようにと、ジーラスタという薬を使っています。点滴した日に針を刺しておき、翌日のある時間になると自動的に薬を注入してくれる皮下注射です。その後、自分でこの装置を外します。

 注入が終わるまで青緑色のランプが点滅し続けます。

 点滴している深夜、目を覚ますとベッドのそばにあった本に、その青緑の光が当たっていました。

 ひうち棚さんのまんが「急がなくてもよいことを」、ちくま文庫「老境まんが」の2冊が、夢のように朝までイメージが残っていました。

ジーラスタ皮下注射
右側のランプが注入終了まで点滅が続きます

 〇

 

 ひうち棚さんのまんが「急がなくてもよいことを」(編集:コミックビーム編集部 発行:KADOKAWA・2021年5月刊)は、姪からいただいた本です。妻の妹の娘さんです。

 読後は穏やかな気持ちになったことを覚えていますが、いつしか忘れてしまっていたまんがでした。

 今回、ゆっくりゆっくり読み返してみました。静かな余韻が残りました。

 あとがきには、学生時代に同人誌を一緒に作った先輩のOさんと、両親の3人を読者と想定して描いたとあります。ひうち棚さんのご両親はすでに亡くなっていますが、ご自身も読み返すと、「もう会えない人に会えたような、何か嬉しい気持ちになります」(あとがきより)と書かれています。

 また2022年12月16日の朝日新聞デジタル版に、この「急がなくてもよいことを」が台湾でも「不用急著長大」という題名で、12月に刊行された記事が載っていました(以下朝日デジタル版からの流用)。

 出版元「鯨嶼文化」の湯皓全社長は「緻密(ちみつ)な画風で、日常を独特の視点で切り取っている。さらに重要なのは、家のどこかに置き去られた写真集のように描かれた過去の懐かしさ」と評価。「両親や祖母との思い出の断片、妻子との家族愛の描写は、台湾の読者にも同じ感情を呼び起こすだろう」という。

 ぼくもこの本から、どこかの家の写真集(アルバム)を覗いているような、不思議な感覚を持ちました。

 「老境まんが」(編者:山田英夫 発行:筑摩書房・2019年2月刊)は、老いをテーマとしたまんが集です。手塚治虫さん、水木しげるさん、永島慎二さん、楠勝平さん、村野守美さん、谷口ジローさん、白土三平さん、つげ義春さん、つげ忠男さん、近藤ようこさん、一ノ関圭さん、高野文子さん、岡野雄一さん、うらたじゅんさん全14名による作品集です。

 ケアマネージャーさんが訪問された日、最近読んだ本の話が話題になり、ぼくはこの本をお見せしました。

 そのケアマネさんはぼくと年齢も近く、これらの作家をよくご存知でした。好きな作家は白土三平さんで、手塚治虫さんの絵は“上手過ぎて”少し苦手と話していました。

 次の訪問日に、「私もこの本を読みましたよ」と話してくれました。

 そして、「玉手箱をどう思いますか?浦島太郎は亀を助け、何も悪いことをしていないのに、玉手箱は残酷な仕打ちと思うこともあるのですが?」と聞かれました。

 このまんが集には浦島太郎のまんがは載っていませんが。

 それでも、多くの介護の現場や認知症の老人を見てきた方です。このまんがを読み、浦島太郎の物語が“老い”と一緒に見えたのかもしれません。

 浦島太郎の“老い”は玉手箱を開けた一瞬。

 ぼくたちの“老い”は気付かない時の流れの中で、ゆっくりゆっくり来ます。

 このまんがは、その“老い”をゆっくり考える機会になるのかもしれません。(2023年9月)