現在住んでいるマンションには、螺子の入った瓶が3つあります。
父が、横浜の家を引っ越す際に持ってきたものは、生活必需品と、数鉢の盆栽、謡曲のテープと謡本(うたいぼん)、茶道と水墨画の道具、そして工具箱と螺子や針金のような補修材料がほとんどでした。
螺子はねじと読み、タニシは田螺、サザエは栄螺と書き、螺(ツブ)は巻貝のことです。
この父の螺子が、今はいろいろなところで役に立っています。壊れてしまった自分たちのものだけでなく、マンションの掃除用具を直す時にも使いました。
螺子は、規格の無い工業製品と言われています。それゆえ、使わなくなった螺子を捨てずにひとまとめにしておくことは、決して無駄ではありません。紙の上に瓶の中身を広げ螺子を見ていると、工学を目指していた父が見えてくるようで、宝物を探している気持ちになってきます。
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ぼくは、製版と印刷の仕事に長く携わってきましたが、図面のある仕事ではなく、図面から精度を求め作る仕事に憧れ、螺子製作をしたいと考えた時期がありました。製版や印刷で色を扱っていると、感性で応えていくおもしろさはある一方で、確固とした手ごたえを得ることはなかなかありません。
この覚束ない思いを持つようになっていた時期に、やって来たサービスマンのマニュアルの中に、青図の螺子の図面を発見し、それが印象に残りました。濃い青線の美しさと、図面が存在することをうらやましく思ったことがあります。工業系の通信教育などをいろいろ調べていた時期もありますが、いつしか忙しさの中に螺子作りへの想いは消えていきました。
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あらためて、父から受け継いだ螺子を紙の上に広げてみました。ゆっくり見ていると、同じものはほとんどなくとても個性的です。螺子にも、作った人の感性が反映していると思うようになりました。
先日ある人から八幡製鉄所の螺子チョコレートを頂きましたので、父の螺子を一緒に写してみました。
写真をあらためて見ていると、父の螺子たちは上のチョコレートと少し距離を置き、不思議な仲間のことを何かヒソヒソと話している声が聞こえてくるようです。(2022年12月)
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NHKの朝ドラ『舞いあがれ』は、螺子を作る東大阪の町工場が舞台。螺子製作の大変さが伝わってくるようで、毎回見ています。
また岩倉社長(高橋克典さん)がルーペで螺子の品質を見ている場面では、印刷物の網点品質をルーペで見ていた頃の自分を思い出していました。(2023年1月)