以下の文章は、小野千世さんの文章教室の「フレンズ」の一人として平野さんの文書をベースにしています。小野千世先生からは「読み始めて難しそうでオヨヨとなりました。はじまりは作品のドアです。ドアが重いと読者が戸を開けるのをためらってしまいます。」の指摘を受けました。それでも、途中からホッとされたようで、「少しずつ文章が解けていきました。次回を楽しみにしています。」と花丸をもらうことができました。(2021年12月)
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「印刷物の画質とトーンとの関係についての一考察」は、1986年の『印刷雑誌』に掲載された平野さんが寄稿した技術レポートの題でした。当時は印刷業界の大きな技術の変わり目で、どの業界誌も技術情報一辺倒になっていました。その中で、題名だけで敬遠されてしまいそうなこのレポートが、ぼくには却って新鮮に感じました。
内容は印刷物の画質を評価する時に使う言葉の収集から始まり、その言葉を分類し、数値に置き換えていくことを提案しています。言葉には個人個人の感覚の違いが入ってくるため、それを客観的に判断できる形にすることを必要と考えていたのだと思います。
平野さんは東京高等工芸学校(現在の千葉大学)で写真技術を学び、終戦の年に卒業した人で、根っこには写真技術がありました。
技術レポートであれば提案して終わるのですが、平野さんはこの後に続けて、「感動」という言葉を使いレポートを続けます。ドイツで印刷されたカレンダーを見た時の感動、レンブラントの画集を見た時の驚きを書いていきます。そして最後は再び数値化の提案に戻りますが、ぼくには印刷物を見て驚き感動する平野さんの印象が大きく残りました。
平野さんは、多川精一さんが主宰する冊子『E+D+P』『紙魚の手帳』の寄稿者でもありました。その縁から、2006年に多川さんの事務所でお会いすることになりました。ぼくは、ある印刷会社で一緒に画像部門を立ち上げましたが、病で亡くなってしまった同僚が大事にしていた平野さんの著作『カメラワーク』を持っていきました。ぼくは、同僚の代わりに『カメラワーク』の見返しに平野さんのサインを書いてもらうことにしました。
また、『一考察』を読んで共感した話をしたところ、たいへん喜んでくれました。このレポートは発表した後も印刷人からの反応はなく、ぼくが反応した第一号だったようです。それからは平野さんが亡くなるまで、「チカシマさんはぼくの友達」と、ずっと連絡を取り合っていくことになりました。
(続く)
後記:文章教室で「トーン」という言葉を説明するのが難しかったです。音でも使われますが、「色調」(色や濃淡が持っている調子)という言葉が一番近いように思います。そして、2021年の文章教室は無事終了。来年の教室では平野さんが作ったベンハムの独楽を持って行き、教室の皆さんに楽しんでもらうことを考えています。