実物の『FRONT』を手に取るとその大きさに圧倒されます。
ぼくが多川精一さんからお預かりした『FRONT』は1942年に作られた海軍号です。15か国語で印刷されたようですが、持っている号は何語なのか長く調べないままでいました。あるとき、福音館書店の『たくさんのふしぎ』シリーズの一冊「言葉はひろがる」(鶴見俊輔:文 佐々木マキ:絵 1988年3月号)に載っていた世界の文字-世界各地の新聞からーの中に、 『FRONT』 に使われている同じ文字を発見。この号がモンゴル語で書かれていることがわかりました。まさにアジアの人たちに向けたプロパガンダ誌でした。
調べていくと、モンゴル語で印刷をしているものがあることがわかりました。タイ語・ベトナム語・インドネシア語・ビルマ語・インドパーリ語・中国語もありましたが、ハングル語はありません。ここにも、当時の韓国の人に対する考え方が出ていると思いました。ぼくはハングル語を覚えようとした時期がありました。いつかあらためてハングル語を学びたいと考えています。
パソコンの画面では、紙面のサイズをイメージすることは難しいかもしれませんが、『週刊文春』をモノサシにイメージしてもらえればと思います。
復刻版は多川精一さんが監修されて平凡社から出版されました。この復刻版は、港区広尾にある有栖川宮記念公園にある東京都立図書館で見ることができます(西国分寺駅の都立多摩図書館にもあります。他の図書館でも検索してみて下さい)。実物はグラビアで印刷されていますが、復刻版ではオフセット印刷ながらも様々な工夫を凝らし、実物の風合いが再現された紙面になっています。ぜひ手に取り、大きさと重さを感じてもらいたい一冊です。(2022年1月31日・母の命日)
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2022年3月に入り、「プロパガンダ」という言葉をニュースで多く聞きようになりました。ロシアのウクライナ侵略を、ロシア本国の人に向けて伝える統制された情報のことを言っています。『FRONT』が作られたのが1942年ですので今年で80年が経ちました。『FRONT』では、印刷紙面の規模とデザインによる情報操作でしたが、情報技術は格段の進歩をしていますが、巧妙さも同じように進歩し、逆に不安と戸惑うことは増しています。
『現代のデザインの源流』(柏木博 著・NHK市民大学・1987年4月~6月)にも、「プロパガンダ」という言葉は多く使われていました。表と裏があるという認識を、ますます強く持つ言葉になっていいきます。(2022年4月)
※「プロパガンダ」はラテン語です。17世紀にカトリック教会が布教のために作った省庁の名前です。