2019年12月に、新聞社主催の文化セミナー「映像詩人ユーリー・ノルシュテインの世界『話の話』」(講師:児島宏子さん)に参加しました。児島宏子さんはロシア語の通訳・翻訳家でありエッセイも書かれている人です。その児島さんのご主人がみやこうせいさんでした。

 セミナー終了後、児島さんに ノルシュテイン のDVDをお借りしました。DVDを返却する際、手紙に写真集『ユーリー・ノルシュテイン』(撮影:みやこうせい 発行:未知谷 2006年)の感想を添えてお送りしました。みやさんは、ある写真集を企画されているところであり、どうすればイメージ通りの写真集になるかを考えていた時だったようです。

写真集『ユーリー・ノルシュテイン』(2006年 未知谷刊)
カバー・黄金色のシルクのような美しい表紙とダブルトーン
奥付のみやさんとノルシュテインさん

 みやさんは、ルーマニアで作った写真集が、イメージとかけ離れてしまった不満を持っていました。そのため、次の写真集の印刷をどうすればよいか悩まれていました。その写真集を見せてもらい、どのような形で進行したのかをお聞きしました。すると、ルーマニアのある印刷会社の作業場のモニターで色を確認して「OK」を出し、そのまま帰国したとのことでした。一見するとスマートなデザインの写真集に感じましたが、よく見ていくと、黒がしっかり出ておらず、またシャープ感が少し不足気味の印象を持ちました。異国の人であっても、同じ仕事仲間として悪口は言いたくなかったのですが、みやさんに納得してもらうため、その時は辛口のコメントをお伝えしました。

ルーマニアで作られた写真集
堅牢なドイツ装の本で、アート紙が使われています

 最近はモニターと印刷物の色を合わせる技術が向上し、色はかなり近いところまできています。しかし、それは色のバランスが近似して見えるということです。ぼくたちがモノを見るときは、色だけを見ているのではありません。色とともに、素材、大きさ、周囲を一緒に見ています。

 以前は色校正を作ることは当たり前でしたが、最近は省略されることが多くなりました。デジタルで入力・撮影することで、データを見て確認でき、露出も安定し、印刷物に使う写真の画質は格段に進歩しました。以前は目を覆いたくなるような真っ黒な、または飛んでしまった写真を使った印刷物もありましたが、現在は無くなりました。そのためでしょうか、色校正を省略してもある程度の印刷物ができるようになりました。しかし、このある程度ではなく、思い通り印刷物にしたいと考えた時には、素材(紙)、大きさ(写真のレイアウト)、そして周囲(本の形で見る)を色校正で確認することだと思います。色をモノとして実感して見てほしいことを、みやさんに提案しました。

 モノの色を見る目のあいまいなことを高校の美術教科書が教えてくれます(下の図版)。一枚のマスクを挟むだけで、色の見え方が変わってしまうことが書いてあります。ぼくの時代には、美術の教科書は鑑賞と創作が主な内容でしたが、今はこのように体験を通し、目のことを実感として教えているようです。あらためて美術の教科書を開いてみたくなりました。(2022年2月)

日本文教出版『高校生の美術3』(令和3年発行)
補足文は、ぼくの方で入れました